20040802句(前日までの二句を含む)

August 0282004

 暑き故ものをきちんと並べをる

                           細見綾子

語は「暑き(暑し)」。人の性(さが)として、炎暑のなかでの行為はどうしても安きに流れがちだ。注意力も散漫になるし、適当なところで放り出したくなる。だが、そうした乱雑な振る舞いは、結局は精神的に暑さを助長するようなもので芳しくない。たとえば取り散らかした部屋よりも、きちんと片付いている部屋のほうに涼味を感じるのはわかりきったことだ。なのに、ついつい私などは散らかしっぱなしにしてしまう。で、いつも暑い暑いとぶつぶつ文句を言っている。掲句では、何を「並べをる」のかはわからないが、それはわからなくてもよい。暑いからこそ、逆に普段よりも「きちんと」しようという意思そのものが表現されている句だからだ。それも決して大袈裟な意思ではなくて、ちょっとした気構え程度のそれである。でも、この「ちょっと」の気構えを起こすか起こさないかは大きい。その紙一重の差を捉えて、句は読者に「きちんと」並べ終えたときの良い心持ちを想起させ、暑さへのやりきれなさをやわらげてくれている。句に触れて、あらためて身辺を見回した読者も少なくないだろう。むろん、私もそのひとりだ。『冬薔薇』(1952)所収。(清水哲男)




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